ちょっと前に某たわしさん(id:boutawashi)がてんぷての小説を書いていた


乗っからないわけには行かないでしょう
SRCのコンテスト期間中だし


というわけで特別企画「てんぷてぇしょん! さんでっ!」
サブキャラで短編小説を書いてみよう
ちなみに「さんでっ!」はsundae(アイスクリームもりあわせ)ってことで
第一弾はマギさん
第五話で別れてからの小話です
なんでここなのかって?
いつものように書きたかったからです


ちなみに、第一弾とかいいつつ次回があるかどうかは反響によって決めます(おい


「商人と鍛冶屋」


獣人王国の王都
わりと自由に生きている獣人たちの国のなかで、最も、
いや、唯一と言っていいほどの大きなちゃんとした都市である
「じゃ、ゆっくり楽しんで またなっ」
そういって、彼女は三人に背を向けた
三人は口々に彼女に礼を言う声が背後から聞こえる
彼女はそれに対し、軽く手を振って答えた
「さてと……」
彼女は背負った巨大なカバンを背負いなおし、人ごみの中を進んでいく
彼女の名はマギ・エルトル
獣人族の行商人として生計を立てている女性である
いつもは、彼女の背負うカバンは荷物でいっぱいなのだが……
「はぁ……しっかし、今回はしっぱいやったなぁ…」
実は、彼女の商品が最近品不足気味なのだ
新たな儲け話を探して西に向かったのがそもそもの間違いだった
普段、マギのような行商人は顧客の多い東南北に広がる国土の中、
あるいは隣にある他種族の友好国に交易しに行くのが普通である
しかし、そんな行き尽くした土地に真新しいものがあるわけがないと、
マギは殆ど人通りのない西の街道を進むことを決めたのだ
しかし、西にあったのは巨大な城壁に囲まれた人間の国グラール・キングダム
硬く閉ざされた門に押し返され、文字通り門前払いを食らってしまった
その間でもさまざまな旅人に出会うことがあり、商品は順番に売れていく
その結果、入荷の手立てがなくなってしまい、今では殆ど品切れ状態である
いろいろと残り物はあったが、騙し騙ししている感は否めない
特に、武器類はもぅ売切れてしまっていると言い切ってもいい
「まぁ、金はあるのが救いやな……」
商品を売り切ったと言うことは、売り上げはあるのだ
正直、ウハウハな状態ではあるが、商品入荷すらしていないのだ
下手に使うわけにもいかない……
「……アイツの所に行くか」
ため息をひとつつき、マギは人ごみの中をずっと歩いていった


大通りを外れた脇道、住宅地区とは逆にある工業区の片隅
多くの建物が土と木で作られている中、その建物だけが石を中心に使用して建てられていた
これは、強い火を使う仕事の店を示す表示であり、
火事などを未然に防ぐために、燃えにくい素材を使っているのである
マギはその店の扉にそっと手をかけた
きいぃぃぃいと、止め具のきしむ音が聞こえてくる
「こんちわ〜」
中は真っ暗だった
いや、通気性を確保するための穴が多数空いているため、光は入ってくるのだが
よく晴れた外との光量の差でそう見えてしまっただけなのだろう
しかし、いつもより暗かったことは確かだった
「……?」
そこは、武具を扱っていた店だったはずだ
前にマギが来たときには、剣や斧、盾や魔法の杖までもが
ショーウィンドウや壁に所狭しと飾られていたはずだった
しかし、今はそれが数えるほどしか残っていない……
「すんませ〜ん だれかいませんか〜?」
マギは声を上げたが、応える声は聞こえてこない
その代わり、店の奥から甲高い音が聞こえる
 カン……カン……
金属と金属がぶつかり合う音
奥で誰かが鍛冶仕事をしているのだろう
人はいるということだ
マギは意を決して奥に足を進めた
店の奥では熱い空気が渦巻いていた
赤く色づいた金属が、吼え猛るように熱波を吐き出している
その中に、人影がひとつあった
金属に向かって、力いっぱい金槌が振り下ろされる
一打ごとに金属は形を変え、徐々に鋭い影を作り上げていく
「なんや、おるんなら返事ぐらいせぇや」
 ガチッ!
明らかに一撃をはずした音が響いた
「なっ!!!」
金槌を投げ出す勢いで、その人物は彼女のほうを振り向いた
「かってに入ったんは謝るけど……そんな驚かんでもえぇやろ?」
「マ……マギさん!!」
「久しぶりやな ラザク」


「久々やな、この匂い……」
リビングに案内されたマギは、漂ってくるその香りに鼻を効かせる
「そんな大げさな……」
ラザクは少し困った顔をしながらも、律儀に応える
ラザクは短く刈り揃えた茶色の体毛を持つ犬獣人の青年である
この鍛冶屋で見習いとして働いており、マギのお得意様の一人でもあった
マギはテーブルの前に座り、その上におかれている紙袋に目をやった
「ホット"ドギー"か 最近食ってへんかったな……」
「お昼に買っておいたんだけど、食べる暇がなくてね……
 遠慮しないで食べてよ」
「それじゃぁ遠慮なく……と言いたい所やけどな」
マギはホットドギーを取り出すと、それを半分に分けてラザクに差し出した
「え?」
「なんかまた痩せたやろ? ちゃんと食べんと、倒れてまうで」
「あ、ありがとう……」
おどおどしながら、彼はホットドギーを受け取った
マギはそれをみて、満足そうに笑顔を作る
それを見たとたん、明らかにあわてた様子で、ラザクはマギから目をそらす
マギは特に気にした様子もなく、ホットドギーにかじりついた
「そういや、なんかあったんか?」
「え?」
突然の質問に、ラザクは驚いた顔を見せる
「だって、今日は商品があんま無いし、おやっさんもおらへんみたいやけど……」
「そ……それは……」
ラザクは口をもごもごさせ、言いにくそうという態度を見せる
何か込み入った事情があるらしい
下手に触れるのは得策ではないだろう
「ま、えぇわ 仕入れに問題がなければな……」
「あ……あははははは……」
目配せをするマギに、ラザクは背筋に寒いものを感じ取った


結局、未だ交渉術も未熟なラザクは、マギに商品を安く買い叩かれてしまうことになった
ラザクもなんとか粘ったが、その結果……気づいたときにはすでに外は日が落ちかけていた
今から宿を探すのもアレなので、マギはその店に一晩置いてもらうことになった
とはいえ、こういうことは初めてと言うわけでもない
おやっさん、つまり、この店の店主はこんなもんではすまなかった
事実、前に太陽が昇るまで続いたこともあった
その結果、こうやって泊めてもらうことも多々あったのだ
半ば専用の部屋となりかけている二階の一番奥の部屋に荷物を置いて来て、
マギは夕飯を作ってやるために台所に立っていた
その間に、ラザクは風呂に入ることにした
鍛冶の仕事というものは汗をかく
そのため、頻繁に体を清めなければ、外にも出られないからだ
それ以外にも、ラザクには風呂に入らなければならない事情があった
「……よし」
ラザクはバリカンを手に持ち、体の毛を短く刈り始めた
獣人は人間族より強靭と言われている
しかし、時には人間族のほうがしぶとい場合も多々ある
それは、獣人は人間と違って環境の変化に弱いからである
環境に適応して進化してきた獣人は、
逆にその環境が大きく変化した場合に体がついていかなくなる事があるのだ
そのため、獣人は職業などがある程度制限されてしまうという事態がおきることがある
例えば、ラザクのような狼獣人はもともと北国で生まれ、暑い環境に適していない
なので、本来は鍛冶のような仕事は南方出身の虎獣人や蜥蜴族などが行う場合が多い
しかし、それでも獣人たちにも色々な目標と言うものはある
それを満たすために大きな努力をする人はいるのだ
ラザクは鍛冶をするために、自分の体が暑い環境に適応できるように、
自らの長い体毛を短く刈り取り、少しでも体を冷やそうとしているのだ
こうでもしないと、あの環境の中ではすぐにダメになってしまう
「こんなもんかな……」
一通り刈り終え、刈り取った体毛をかき集め始めるが……
「まだまだ、背中に刈り残しがあるで!」
「え、そうですか……?」
「全然あかんわ 貸してみ」
「あ、はい って……」
ラザクは恐る恐る後ろを振り返った
そこにいたのは、バリカンを手に持ったマギ……
「う、うわわわわわわっ!!!」
いきなりのことに、パニックを起こす
「マ……マギさん!! なななななななな!!」
「そんなパニくらんでもえぇやん」
特に気にした様子もなく、マギはバリカンをカシカシと動かす
「まぁ、気にするんやったらさっさと隠したほうがえぇで」
マギに言われ、やっと気がついたラザクはタオルで前を隠す
とはいえ、マギ的には何にも思わなかったようだが
「ほら、背中、刈ってやるから見せてみ」
「い……いや、えっと、大丈夫ですから……!!」
「大丈夫やったら、ちゃんと刈れとるはずやろ?」
「うぅ……」
ラザクはしぶしぶ、マギに背中を見せた
マギの言うとおり、ラザクの背中の毛はかなりのびていた
多分、結構長いこと刈れていなかったのだろう
背中モヒカンのような状況になっていた
マギはそれを慣れた手つきで刈り取ってやる
背中だけだったのですぐに終わった
「ほら、これで完璧や」
「あ……ありがとうございます……」
「照れんでもえぇって!」
顔を真っ赤にしてうつむくラザクの背中を、軽く叩いてやる
「さて、そろそろメシも出来上がってるころやろ
 さっさと上がってきいや」
そういい残して、マギはさっさと風呂場から出て行った
……少し放心しているラザクを残して……


夕飯も食べ終わり、洗物も済んだころ、二人はオセロ盤を持ち出してゲームを始めた
実は二人ともこれがかなりの腕で、
おやっさんとやった時には、完膚なきまでに叩きのめしたこともある
しかしまぁ、負けず嫌いなおやっさんが譲ってくれなかったために
二人が対戦したことはあまりなかった
とはいえ、始まってしまえばそんなことは特に気にすることもない
二人は黙々とオセロをめくり合っていた
「そういや、アレはどうなったん?」
「え?」
突然の質問にラザクは戸惑ったような声を上げる
「アンタの作品、なんか良いもんできたん?」
「え……あぁ……まだまだだよ、おやっさんには到底追いつかない」
「それでも、そろそろ形にはなってきたんと違う?」
「まぁ……そうだけど……ここからが大変なんだよね……」
「でもまぁ、絶望的ではなくなったやろ」
マギはぱちぱちとオセロを裏返しながら呟く
「ウチも見てみたいわ--------"カタナ"」
"カタナ"--------東の果てにある島国でしか生産されていないと言う伝説の剣
とは言え、人が作れる武器ではある
ただ、それの製造技術と扱い方が普通の剣とはまったく違うのである
剣はその重さで荒々しく断ち切ることを主としているのに対し、
"カタナ"は技術と硬度で鋭く斬るための武器である
そのため普通の剣と違い、丈夫で高い硬度を持ち、尚且つ一定の厚さで造られるといわれる
また、それには不思議な文様を持つものが多く、武器の中では"芸術"の域に達すると言われている
ラザクは、この"カタナ"を造りたいがために鍛冶屋を志したのだ
「あ、そうだマギさ……」
「なんや、もぅこんな時間か……」
マギは外を見ながら呟いた
外はすでに真っ暗になっており、月と星の光が空を覆いつくしている
時間も時間だ、ラザクはマギに声をかける
「そ、そろそろ寝ます?」
「そやな、明日も早めに出たほうがえぇかもしれへんし……」
「それじゃぁ、戸締りを……」
ラザクはオセロを片付けて立ち上がった
 ばきっ!
突然、店の方から木が砕けるような大きな音が響いてきた
その音に驚き、二人は顔を見合わせる
「なんや、今の音!!」
「行ってみましょう!!」
二人は急いで店の方へ駆け出した
「!!」
なんと、店の入り口の扉が破壊され、そこには巨大な影が映っている
多分虎獣人の系列なのだろう、しかし、その影は異形にも見える
肥大化した両肩に丸太のような腕、シルエットは綺麗な逆三角形を作っている
顔は獣そのもので、鋭い牙と殺意が篭った瞳は鋭くこちらを見ている
「なっ……おやっさん!!」
「マギさん!!」
驚くマギの横から、ラザクが飛び出す
一瞬の後、目の前にその獣が飛び掛ってきた
「でぇい!!」
ラザクの精一杯の一撃が、その獣を押し返し、床にたたきつけた
「こっちです!!」
「ちょっ……ラザク!!」
マギの手を引き、ラザクは店の外へ逃げ出した
獣はのそのそと身を起こし、その背中をにらみつけていた……


「な……なんやあれ!!」
「えっと、その……」
「きびきび説明せい!!」
「は、はい!!」
追いかけてくる獣から逃げながら、マギは声を張り上げる
その声に攻め立てられ、ラザクもなんとか説明を口にする
「最近、この国で"凶変病"が流行ってるんです!」
「"凶変病"?」
「夜になると凶暴になるとかで……
 それで、何日か前におやっさんもそれにかかって!」
「なんでそんな大事なことを言わへんねや!!」
「だって!!
 "こんな病気、気合と根性で治る、だから山に篭る"って言って出て行ってから
 どこに行ったのかわかんなかったんですもん!!」
「うわ、やりそうやな、あのおっさん!!」
 グワァアアアァァア!!
後ろからおやっさんが獣丸出しの雄たけびを上げている
どうやら、完全にダメそうだ
「で、アレはどうやったら止まるん!?」
「朝になれば勝手に止まるんで、気絶でもさせれば!」
「気絶ったって!!」
明らかに色々なところが違いすぎる
二人は武器らしい武器も持たずに外に飛び出してきたのだ
見た感じ、力も防御力も圧倒的に向こうのほうが上そう
不利なのは火を見るよりも明らか
「朝まで逃げ隠れするか……」
「無理だと思いますよ……」
二人の前に三つの人影が躍り出る
全員が鎧を着込んだ熊獣人……城の兵士たちである
しかし、様子がおかしい……というか
「まさか、あいつらも……?」
「むしろ、発病が城の中らしくて……兵士の殆どが病人だそうです……」
兵士たちが各々武器を構えた
「あぁもぅ!!!」
マギは一気に加速すると、一番近くにいた斧兵の懐に飛び込み
露出されている顎を狙って蹴りを叩き込んだ
これがかなり効いたのか斧兵は気絶して後ろの倒れこむ
「なんや、結構いけるやん!!」
二匹目の槍兵が、槍を構えて突撃してくる
「横槍はあかんで!!」
マギはその槍の下のもぐりこみ、足払いをかけた
鎧の重さもあり、槍兵はそのまま地面に転がる
最後は弓兵
マギに向かってその弓を突きつけてくるが……
「やああぁああぁあぁ!!」
ラザクが奪い取った斧を振り上げ、弓兵に向かって飛び掛った
 ぺちっ
弓で叩かれ、ラザクはあっさりと倒された
「どないやぁあああ!!」
弓兵を蹴飛ばしてから、マギはラザクに詰め寄った
「だって、武器をもって戦うのって初めてで……!!」
「それ以前の問題やろ、どう考えても!!」
そんなことをしている間に、おやっさんがふたりとの距離を縮めてくる
「ちっ……!!」
二人は飛び上がるように立ち上がり、おやっさんから距離をとる
 グワアアアァアァァァアァ!!!
おやっさんの叫び声が響く
「一気にしとめる、手伝え!!」
「わ、わかったよ!」
二人は同時に力をため、狙いをつける
おやっさんはコブシを振り上げ、二人に襲い掛かる
しかし、遅かった
「狐術・金剛万華!!」
マギの放った金色の衝撃波がおやっさんを吹き飛ばす
「犬鉄・轟重撃風!!」
ラザクの声が響くと同時に、おやっさんの体を黒い力が包み込み、地面にたたきつけた
大きな音が響き、地面に巨大な穴が開く
土煙が収まった後、穴の真ん中には目を回しているおやっさんが残っていた
「うまくいったんかな?」
マギは呼吸を整えながら、おやっさんの方を見た
「マギさん!!」
突然、ラザクがマギに飛びついてきた
「やった、やったよ!!」
気でも動転しているのか、思いっきり抱きついてくる
思わぬ不意打ちに、マギもあわてて声を張り上げる
「わかった、わかったから離れぃ!!」
「〜〜〜〜!!」
とりあえず、殴って落ち着かせるまでこの状態は続いた


結局、その後はおやっさんの看病のためにマギは数日の間、獣人王国に留まる事となった
その間に凶変病の血清が開発され、凶変病の騒動は終結を迎えることとなった
「じゃぁ、ウチはもういくわ」
「うん、いろいろありがとう」
マギは商品を詰め込んだカバンを背負い、行商の旅に出ることにした
もともとそういう生活をしていたため、長く留まった事の方が珍しいのだ
名残惜しそうにこちらをみてくるラザクに、マギは小袋を手渡した
「これは?」
「餞別」
中には、ポリトの木の実が入っていた
栄養価満点の食品である
「食べさせてやんなよ、おやっさんの武具は大人気だからね」
「あ、ありがとう……じゃぁ、これ……」
ラザクは、かわりに懐から一本の刃を取り出した
長さはダガーなどと同じくらいであろう
黒く鋳られた刃は光の具合で輝くことはなく、それでいて、鋭く美しい文様を抱いている
柄の頭には丸い輪が付いており、楔のようにも思えた
「これは……?」
「"クナイ"って言って、"カタナ"と同じ国で作られたものだって
 "カタナ"の練習に造ったんだけど……もって行ってくれないかな……?」
「ふ〜ん……」
練習作と言ってはいるものの、その刃の形、鋭さ、珍しさでいえば十分な品である
マギの見立てではかなりの値打ちがつけられそうだ
「わかった、いい人に買ってもらえるように努力してみるわ」
「うん、感想とか聞いてきてね」
「わかった」
"クナイ"を中に押し込み、マギはカバンを背負いなおした
「それじゃぁね」
「あぁ、またな」
ラザクに軽く挨拶をした後、マギはさっさと背を向けて歩き出した
それを見送った後、ラザクは顔をひと掻きし、店の中へ戻っていった


「さってと……今度はどこへ行くかな……」