投票は終わったころのはず


というタイミングで「てんぷてさんで!」第二弾
長さが前回の半分という暴挙
製作時間なんて前回の四分の一以下
だって戦闘がないんだもん
今回の主役は
一歩一歩歩むごとに響き渡る愛らしさが定評の
天然系古代兵器「ゴーレム」
と、その扱いがポスト隊長といわれながらも
原作者の寵愛のお陰で「それはない」と言い切れそうな気のする
ハーピィの長「サリエナ」
といいつつ、サリエナ分は少ないし
小さい頃っぽい感じなので、「どの辺がサリエナ?」と言われそう
まぁいいや、読みたい方はどうぞ


「EMETH」


(ふふ……だめでしたね……)
遠くで聞こえる声、優しい声
(ルジェンナに続き、ナビアまで……どうやら、運にも見放されてしまったようだ……)
諦めの声、でも、挫けてはいない声
(この国は……いえ、この文明はここで終わりのようですね……
 ならば、私もそれ相応の覚悟をさせてもらいますよ……)
近づいてくる足音
誰?
(私の子供たち……私の力不足を許しておくれ……)
子供たち?
(でも、私は良かったと思っている……
 これで、あなたたちは自由になれる……)
触れられている?
暖かい……
暖かい……?
(あなたたちは"胎児"……生れ落ちるのは、まだ先の世界……)
"胎児"……
(私の覚悟を支えてね……私が生きた証として……)
生きた証……
(行きなさい……生れ落ちるために……
 広い世界を見るために……)
広い……世界……
音が聞こえる
耳障りな音
赤い光が輝く
みんなを照らしている
みんな……?
地面の下に消えていくみんな
下は、とても暗い
(さぁ、あなたも……)
(いたぞ! あいつだ!!)
遠くから別の声が聞こえる
その人はそれに気づき、自分の背中を押した
自分も地面の下に消える
そのあと、頭の上を光が走った気がした
赤いものが飛ぶのが見えた
でも、その人は笑っていた
自分が闇に飲み込まれた後、上のほうで大きな爆発が起きた
赤い光が見えた気がした
気のせいだった
だって、自分はまだ目も開けていない
耳も聞こえていない
まだ、生まれてもいないのだから……


チチッチチチッ……
音がする
どんな音……?
目を開けた
何かがいた
「コレハ……?」
薄茶色の小さなものが動いていた
ふと気づく、今、別のところから音がした
「ナンダ……?」
自分の考えと同じ事を言っている……?
いや、これは自分の声だ
「ナンダ……」
言葉がわかる
いや、知っている
そうだ、これは言葉だ、自分は知っているんだ
そう思うと、いろいろなことがわかってきた
先ほどの音は鳴き声だ
動いていた小さなものは小鳥だ
そう、自分は知っている
何故?
小鳥は始めて見た
なのに、自分は小鳥を知っている
「…………」
光があった
目の前から、光が入ってきている
ここは洞窟の中?
そうだ、自分は今影の中にいるのだ
意を決し、足を出してみる
ズシンという音が聞こえ、足が地面にめり込む
その音に驚き、小鳥が逃げ出す
気がつけば、自分の周りにも何羽か小鳥がいた
その小鳥たちも、音に驚いて逃げ出す
しかし、足を踏み出すことはやめない
今は、光を浴びたい
外に出た
光を浴び、緑色に輝くものが周りにいっぱいあった
アレは植物だ
光のある方を向いた
そこには青いものがずっと広がっていた
アレは空だ
空の中心には、光の塊が浮いていた
アレは太陽だ
「太陽……」
足を踏み出す
ただそうしたい
そう思ったから


植物が多くあるところを抜けると、縦に高い所があった
「太陽……」
足をかけ、手をかけ、ずっと登っていく
ゆっくり、ゆっくりと……
岩に刻む大きな音が遠くまでよく響く
しかし、そんなことは気にしない
太陽を目指す
それしか、考えていない
すこし広い場所に出た
斜めになっているところにつながっていた
ここからなら、足だけで登れる
足を踏み出す
「おい、お前」
声がした
後ろだ
振り返る
そこには人がいた
人……?
真っ白な肌に青い髪
鋭い猛禽のような瞳
幼い顔立ちの少女に見える
しかし、その背には白い翼が生えており
手足には鋭い爪が生えている
「ナンダ……?」
「何だじゃない!!」
少女は大声を張り上げてくる
その声に、少しだけ体が押された
「お前、ここがどこだかわかっているのか!!」
「ココ……?」
「ここは"飛竜の山"だ!! 山頂にはドラゴンが住んでるんだぞ!!
 ドラゴンを知らないとは言わせないぞ!!
 赤くて火を吐いて空を飛んでどんなものでも餌にする奴なんだぞ!!
 こんなところを登るなんて、何を考えてるんだ!!
 大体、お前は何なんだ!!
 そんなに泥まみれになった鎧を着て山を登るとか、正気の沙汰じゃないぞ!!
 退治か!!
 またドラゴンを退治して名前をあげようとか考える馬鹿なのか!!
 そうか、そうなのか!!
 おい、何とか言ったらどうなんだ!!」
詰め寄るようにして少女は言葉を続けてくる
しかし、落ち着いて答える
「チガウ……」
「違う……?」
呆気にとられたという顔をした後、少女は少しだけ距離を置いた
詰め寄ったことに対して恥でも感じているのだろう
少し目をそらしている
「じゃ、じゃぁ何でこんなところにいるんだ……!!」
空を見上げ、答える
「太陽……」
「太陽?」
少女もそれにあわせ、空を見上げる
空では煌々と光る太陽が中天に昇ろうとしていた
「まさかお前……山の上に登って太陽を取ろうとしてたとか?」
「…………」
「あはは、無理無理 太陽は空を飛んでも届かないほど遠くにあるんだ
 山の上からじゃ全然足りないよ」
「無理……?」
「そう、無理だから諦めな」
「…………」
無理だと言われた
途端に、何も無くなった
「…………」
「……どうした?」
少女が心配そうにこちらを向いた
「おーい……」
「…………」
その目を振り切りたかった
なぜか、見て欲しくなかった
だから、一歩一歩と後ろに下がった
「お、ちょっと!!」
ただそれだけだったのだが
バランスを崩した

「ストップ!! ちょっと待て!!」
少女が手に持った鞭を腕に絡ませ、崖から持ち上げようとした
しかし、重さが違いすぎた
「わぁあああぁあああぁああ!!」
鞭でつながった少女を引き連れ、落ちた
遠くなっていく空
感じていた重さが消える感覚
衝撃
舞い上がる土ぼこり
戻ってくる重さ
その上に落ちる少女
静寂
収まる土煙
「いつつつっ……」
頭を押さえながら起き上がる少女
怪我らしい怪我はしていないようだ
「ってめぇ!! 何のつもりだ!!」
「…………」
「黙り込むんじゃない!! 何とか言え!!」
「…………」
少女の叫びに、答えられない
何をいえばいいのかわからない
何も無いから
「おいってば!!」
少女が顔を近づけてくる
怒っている?
「こういうときは、まず"ごめんなさい"って言うもんだろ!!
 そのくらいの事はしなよ!!」
ごめんなさい?
ごめんなさい
ごめんなさい……
「…………」
「?」
「……ゴメンナサイ……」
「……よろしい」
少女は満足そうにそういうと、体の上から降りた
それにあわせ、体を起す
「で、お前はなんなんだ?」
「……知ラナイ」
「知らない?」
「知ラナイ」
正直に答えた
小鳥は知っている
植物は知っている
太陽は知っている
でも、自分は知らない
「こりゃ参った、エセ勇士の次は哲学者とは……」
「哲学者……?」
「哲学するつもりなら、礼儀のひとつでも覚えてからにしろって」
「礼儀……?」
そこまで言って、少女は腕を組んでこちらを見つめる
「……礼儀っていう言葉も知らないの?」
「…………」
答えなかった
漠然としすぎていたから
しかし、少女は知らないと取ったのだろう
勝ち誇ったような表情をこちらに向けてくる
「いいわ、アタシが一から徹底的に教えてあげる」
教えてくれる……?
教えてくれる……
「頼ム……」
「そういうときは、"よろしくおねがいします"でしょ」
「……ヨロシクオネガイシマス」
「よろしい」
少女は肩に乗った
軽い
「あんた、名前は?」
「……"胎児"」
「……胎児?」
「ごーれむ……ごーれむハ"胎児"」
「ゴーレム? かっこいい名前じゃない」
「カッコイイ?」
「そう、素敵な名前よ」
「ソウカ」
少女は肩の上でくすくすと笑う
楽しそうだ
楽しい……
楽しい?
「アタシはサリエナ 覚えておくのよ」
「さりえな……?」
「違う、サ・リ・エ・ナ・! もっとちゃんと発音しなさい!」
「サ・り・エ・な」
「何かおかしいわね……まぁいいわ、少しずつなおしていけばいいわ」
「ソウカ」
答えると、サリエナは笑い声をあげた
笑う
こんな時は笑うのか
真似してみた
大きく動く肩から、サリエナが落ちかけた
怒られた


アレから数年がたった
サリエナはハーピィの長となった
実力も知識もあった、当然と言えば当然かもしれない
ただ、まだ肩に力が入り、背伸びをしている感じは抜けていない
それはそうだ、数年来の付き合いなのだから
今日も忙しく飛び回っている
ドラゴンが不機嫌なせいで、山の他の生物にまでイライラが伝わってしまっているからだ
そんなサリエナの手伝いをするために、山の入り口で人が来ないように見張っている
人が来れば、ハーピィたちが襲い掛かってくるからだ
そうなれば、サリエナにまた迷惑がかかる
そうなって欲しくないからだ
足を踏み出す
地面に響く
足音が遠くまで響く
人影が見える
登ってくる
危険だ
足を踏み出す
地面に響く
驚いて、人影はこちらを向く
「な、何アレ?」
「岩の塊……ってわけではない?」
ハーピィ達を刺激はしたくない
急いで逃げるように伝えなければ
足音が遠くまで響く
人影が固まった表情でこちらを見る
「オ前達…」
「ひっ、しゃ…しゃべった!」
「はひぃ…」
「オ前達、ココカラ去レ」