「てんぷてさんで」の三話目、書いてみました。
あっつい中でなかなか筆が進まなかった……
しかも実家にいると仕事おしつけられておちおち作業できないし
アレとかコレとか大変だし
そんな感じで第三話


タイトル的にもわかるが、カルテをメインに使いたかった
が、投げっぱなしな部分を束ねるにはこいつら目線のほうがやりやすかったんで
カルテは後半に出てくる程度
カルテファンの皆さん、勝手に使ったことも含めてごめんなさい
あと、地味にあの人登場、名前を出さずに(爆


ちなみに今回のメモ帳の容量は20KB
第一話の1.3倍、第二話の3倍近くという長めな文
あと、調子悪かったし、もしかしたらいつも以上に読みづらいと思う。


そんな感じの第三話、暇つぶしにどうぞ


「嬢ちゃん、しっかりやれよ」


「ふぅ……いい日照りだな」
夏の暑い日、獣人王国の都の外れにある野菜畑の中で、
一人の獅子獣人が畑の草むしりをしていた。
「おや、精がでるね……」
声をかけられ、彼は後ろを振り返る。
そこには、野菜かごをもった老獣人が立っていた。
「お、トマト畑のゲドルさん、収穫はどうだい?」
「なかなかいい感じだよ……そっちは?」
「大振りでいい色だよ、そろそろパイにでもするのがいいかな……」
そういいながら、獅子獣人は畑の実りを確認する
緑色に染まった、大きめのかぼちゃが転がっていた。
「はっはっはっ……大地の実りに感謝せねばな」
「あと、風と水と光に、だろ?」
「そのとおりじゃな」
ゲドルを見送ると、獅子獣人は再び草むしりに没頭しはじめた。
夏の日差しがかぼちゃ畑に降り注ぐ……
「ばぁるしぇぇええええぇえぇぇええ!!!」
「うぉぅ!!」
抜いて回っていた草を放り投げ、バルシェは驚いたような声を上げた。
「おぅ、フェルオ、どうした?」
「どうしたじゃない!!」
振り向いたところに、フェルオが立っていた。
明らかに怒っている顔だ。
「お前は何をしているんだ!!」
「何って、グリムさんの畑の草むしり」
「グリムさんって!! わが国の国王陛下なんだぞ!!
 そんな軽々しく呼んでいい人ではない!!
 しかも、王の所有物に触れるとは、言語道断!!
 だいたいお前は……」
「顔も知らなかったくせに」
「うっ…………」
すさまじく痛い一言にフェルオはひるんだ。
あの一件以降、忠誠心にグラつきが起きてしまい、
バルシェのこの返しにだけは勝てなくなってしまったのだ。
おかげで、最近はバルシェをいさめる事が出来なくなってしまっている。
「ところでお前、飛龍の山に行ったって聞いてたけど……
 ハーピー達は元気だったか?」
草むしりを続けながら、バルシェは尋ねる。
フェルオは頭を抱え、ため息をついてから答えた。
「……元気なんてもんじゃないよ……
 行ったとたんに襲われるわ、誤解が解けてからも鳥退治を手伝わされるわ、
 その他雑用も押し付けられるわ……」
「パシリな性格がにじみ出てたんだろう」
「うるさいわい!!」
フェルオをからかいながらも、バルシェは草むしりを続ける。
こういうときの手際はいいのだ。
一通り集めた草を畑の外れに集め、堆肥を作る。
その姿を、フェルオはゆっくりと目で追っていく。
「そういうお前は、南方のセイレーンの集落に行ったんじゃなかったのか?
 一級の任務を受けたと聞いていたが?」
「あぁ、もう終わらせてきた。 一級にしては、楽な方だったんじゃねーの?」
「ふぅん……で、セイレーンは……」
「まぁ、元気でやってるんじゃねーの?」
愛用の獲物で草を叩きながら、バルシェはそっけなく答えた。
暫くすると、草は完全なブロックになってしまった。
「さてと、あとは収穫できた奴を届けて……」
「らいよんのおじちゃーん!!」
「ん?」
覚えのある元気な声が、遠くから聞こえてくる。
「あれは……」
金色の美しい髪をロールし、水色のドレスを着た少女がこちらにかけてくる。
「あー、アルたちと一緒にいた、シャルロットちゃんだったっけ」
「こんにちわー!!!」
どどどどどどどどどどどど……
シャルロットは勢いをつけると飛び込んできた。
凄まじい突進からのダイブをもろにくらい、バルシェは畑の中に倒れこんだ。
「うぉっぷ!」
ぎりぎり受身を取って、バルシェはシャルロットを持ち上げる。
「おぉ、久しぶりだな、お嬢ちゃん」
「うん、ひさしぶり〜」
「どうしたんだ? 今日は」
「今日はね、遊びに来たの。 リフィルちゃんと〜」
「リフィルちゃん?」
聞きなれない名前に、二人は顔を見合わせる。
「…………あの……」
「ん?」
「あ、リフィルちゃ〜ん」
シャルロットが元気よく手を振った相手は、銀髪の少女だった。
あまり抑揚のなさそうな表情をしているが、かなりの美人の部類に入るはずだ。
「……その……はじめまして……」
「あ、これはどうも……」
頭を下げるリフィルに、フェルオも思わず挨拶し返す。
バルシェは起き上がって、シャルロットを地面に下ろした。
「ねぇねぇ、ミレアちゃんどこ?」
「ん? あぁ、あの子か……
 今の時間なら、花摘みに行ってるんじゃないか?」
「どこに〜?」
「町外れの森の中にある花畑だろう。 今の時期なら、綺麗に花が咲いているはずだ」
「いきたい、いきた〜い!! つれてって〜!!」
跳ね回りながら催促するシャルロット。
とはいえ、バルシェたちにもまだ仕事があるわけで……
「よし、それじゃぁ……」
バルシェはシャルロットの前にしゃがみ、目を覗き込んだ。
「オレを"らいよんのおにーさん"って呼んでくれたら、あそこのワンコに案内させてやる」
「ちょっと待て、そこのニャンコ」
フェルオの突っ込みが綺麗に飛んだ。


「それでは、よい返事をお待ちしております」
「一大事なんですからね! 本当にお願いしますよ!!」
「わかった、なるべく早く連絡しよう」
「それでは、失礼します……」
謁見の間から出て行く赤髪の青年と妖精を見送ってから、王は深く息を吐いた。
「王、本当に彼らを信用するつもりですか? "天使の回廊"を開くなどと……」
傍らに立っていたマシェイが声を荒げる。
が、グリムは対照的に落ち着いた声で答えた。
「だが、魔華七将と名乗っていた"奴"のこともある……
 それに、妖精を連れているのだ。 最低限、"妖精王"からは認められた人物なのだろう。
 "回廊"のことを知ってる点からしても、ただの人間でもあるまい。
 信用するしない以前に……賭けてみる価値はあるだろう」
「……了解しました」
しぶしぶながら、マシェイは答えた。
「お話は終わったかい?」
謁見の間の扉を空け、かわりにバルシェが入ってくる。
その背中には、野菜の詰まったかごを背負っている。
「今出てった奴は?」
「旅行者だそうだ、観光スポットを聞かれてな」
「ほぅ、妖精連れでか?」
「まぁ、そういうことだ……」
「ふぅん……」
隠していることがあることにはうすうす感づいていたものの、
バルシェは突っ込むのをやめた。
「それで、お前に課した任務のはなしだが……」
「あぁ。 これ、収穫した野菜な」
背中のかごを下ろすと、待ちかねたとばかりにグリムは飛びついてきた。
かごをあさり、そこからかぼちゃを取り出して、撫で回す。
「おぉ、この色といい艶といい、大きさも形も美しい……!!
 ここの所各種雑務ばっかりで畑に出られなくて心配していたが……
 お前に頼んで正解だったな」
ものすごく満ち足りた表情で、かぼちゃを見つめている。
「なに、このくらい、良いって事よ」
「いやぁ、ホント、今すぐにでも畑に戻りたい……」
コホン……
小さな咳払いが聞こえ、グリムの動きが止まる。
「王……?」
マシェイの小声の圧力がかかり、グリムはしぶしぶ玉座に戻った。
そのときの哀愁漂う背中に、バルシェは少し噴出しそうになった。
「……コホン……いや、それではなく……任務……」
「わかってるよ。 セイレーンの集落の調査だろ?」
突然、バルシェの顔つきが険しくなる。
それを感じ取り、二人も息を飲む。
「……七つあったセイレーンの集落……オレが到着したときには、三つに減っていた。
 その三つのうち、二つは間に合ったが……残りの一つは、俺たちの目の前で滅ぼされた……」
「っ!!」
「ありゃひでぇな……死んだ奴が、また起き上がって仲間を襲う……
 凶変病よりも、さらに上を行く外道っぷりだったぜ……」
思い出しただけで気分が悪くなる……
頭を押さえるバルシェの様子を見て、二人はそのことを感じ取ったようだ……
「生き残りは地底湖のほうに逃がしておいたが……いつまで隠し通せるか……」
「……どうやら、"奴"……いや、"奴ら"は本格的に活動しだしたということか……」
グリムは腕を組み、眉間にしわを寄せる。
「まぁ、悪い知らせばかりでもないけどな」
「というと?」
「飛龍の山でアルたちがサリエナと魔女に会ったそうだ。
 これで、魔華七将のことは魔女たちに知れたことにはなるな。
 それに、山の連中も協力してくれるそうだ。」
「ふむ……確かに警戒してくれる仲間は増えたことにはなるが……」
「王……」
マシェイが不安そうにグリムに語りかける。
「……やはり、待っているだけなのは性に合わんな……」
グリムはバルシェにむかって目配せをした。
(あ〜、また面倒なこと頼まれるんだろうなぁ〜)
と、バルシェはため息をついた。


二日後、バルシェとフェルオは街道を歩いていた。
旅の必需品を簡単に詰め込んだ袋を背負い、いつもの装備ではなく、
どちらかといえば私服に近い格好をしている。
いつも持っているはずの獲物を、今日は携帯していない。
「な〜んか落ち着かないな。 獲物を持ってないのって……」
肩を回しながら、バルシェはつぶやいた。
「"人間の国 グラールキングダムに親書を届けろ"という命令だからな。
 敵対意思の塊である武器を持っていくわけにもいかないだろう」
「でもなぁ、なんか軽すぎる気もするんだよな〜……」
そう、二人はグラールキングダムを目指して進んでいた。
セイレーンをはじめ、世界中で多くの種族が襲われる事件が多発している。
獣人王国は今回の事件を世界的な対応が必要なものと言う見解を示し、
各種族の代表に親書を送ることにした。
協力体制を作り、この脅威に立ち向かおうと。
その親書を、彼らはグラールキングダムに届ける役目を引き受けたのだ。
しかし、グラールキングダムと獣人王国の国交ははっきり言って良くない。
それと言うのも、獣人というものをモンスターと同列に考える思想が根強いからだ。
ドラゴンなどと同じく、獣人も人間をベースにした魔族が起源といわれている。
そんな存在が大きな国を造っているというのだから、警戒しないわけがない。
一部では、獣人が魔王信仰を続けているという噂がある、という噂があるくらいだ。
その誤解が消えない限り、協力体制を造ることは難しいだろう。
だが、それでも親書を送らなければ成らないほど、事態は切迫しているのだ。
「で、人間の国ってのはあとどのくらいでつくんだ?」
「森を通らない最短距離をすすんでいるはずだが……
 あと3日は歩き詰める事になるだろうな」
フェルオが地図をのぞきながらつぶやく。
それを聞いて、残念そうな表情を浮かべる。
「まだそんなにあるのか……そろそろ飽きてくるぜ、お前と二人っきりなんて」
「……なにが言いたい……」
「いや、酒も女もないのは辛いなーと」
「少しは禁欲しろ。 わが国の品位まで疑われる」
「むぅ……」
そんな風に言い合いながら、二人は晴れた空の下歩き続けた。
「しっかし、誰も歩いて来んな」
「当然だ。
 人間は獣人を怖がるだろうし、獣人も人間には近づかないようにしている。
 必然的に、交流の要であるこの街道を使う人なんて……」
「お、誰か来るぞ?」
流れを無視した展開に、フェルオは思わず躓いた。
バルシェが指差した先に、一人の人間が歩いていた。
端正な顔つきの、赤い鉢巻をつけた青い髪の少女である。
「女だ」
「女性ですね」
こすった顔面をさすりながら、フェルオも少女を確認した。
「珍しいですね、こんな所に……」
「どうする? 争いになったら後が面倒だぞ?」
「う〜む……なるべく関わらない方がいいかもしれませんね」
とりあえず、気にしない方向で二人は少女の横を通り過ぎた。
当然、会釈することは忘れず。
が……
「あ、ちょっとすみません」
少女の方から声をかけてきた。
思わず、二人は動きを止める。
(どうする?)
(ここは自然に避けた方がいいですね……)
二人は顔を見合わせた後、そ〜っと少女の方を向いた。
「あなたたち……獣人……ですよね?」
「いやいや、オレたちはちょっと発育過剰なニャンコとワンコですよ」
「そんなガタイのいいニャンコはイヤ」
あっさりと一蹴される。
「じゃぁ、実はこれぬいぐるみ」
「脱げるもんなら脱いでみなさい」
「いや、オレの部族ではぬいぐるみを脱いだら死ぬんで」
「そんな部族いるなら見てみたい」
「ほら、だからオレたち」
「埒が明かないから、その辺でやめてくれる?」
「キっツイな、嬢ちゃん」
「嬢ちゃんって呼ばないで」
臆さぬ少女の態度に、おもわずバルシェはつぶやいた。
「で、ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」
「聞きたいこと……ですか?」
バルシェを下がらせ、フェルオの方が答える。
「えぇ、人を探してるんです」
「ほぅ……」
「人間の男の子と魔女の女の子の二人組み……もしかしたら、小さい女の子も一緒かもしれませんけど、
 心当たりはありませんか?」
少女の言葉に、二人は顔を見合わせた。
覚えがあるのだ、その珍しい組み合わせに。
「えっと……それってもしかして……」
うぉおおおおぉぉおお!!
突然、獣の咆哮が街道に響く。
「な……何……!?」
「この声は……!!?」
「嬢ちゃん、さがんな!!」
バルシェが少女の前に躍り出る。
わおおおおぉぉぉぉおおぉぉぉお!!!
そして森の方に向かって負けずに吼える。
その衝撃で草木が揺れる。
すると、森の茂みの中から何体かの獣人が飛び出してくる。
ワーウルフ、ライオネル、フォックステイルにウォーバニットと
さまざまな種族が群れをつくっている。
そして、みんな一様に目が真っ赤だ。
「……凶変病……!?」
「あー、この辺には血清が回ってなかったんだな……」
二人は獣人達をにらみつけ、素手のまま身構える。
「ちょ……ちょっと……どうしたの!?」
「あいつらが暴れまわる病気にかかってるんだよ。
 殴って大人しくさせるから、ちょっと待ってろよ」
バルシェは獣人の群れに向かって飛び出した。
凶変獣人たちが、牙をむいて襲ってくる。
「おらぁ!!」
一匹目のワーウルフの顔面を殴り飛ばし、後ろにいたライオネルごとふっとばす。
飛び掛ってきたウォーバニットを蹴飛ばし、フォックステイルを踏みつける。
バルシェ!! もう少し手加減してあげなさい!!」
「そいつは無理な相談だな。 ハンマーじゃないと手加減が難しくてな」
「それでも努力をしろ!!」
「へいへい」
バルシェをいさめつつ、フェルオも群れを相手に奮闘している。
ライオネルを投げ飛ばし、フォックステイルの急所に肘鉄を食らわせる。
その瞬間、後ろからウォーバニットが空中から襲い掛かってくる。
「くっ……!!」
反応が間に合わない。
そう思われたとき、とつぜん、ウォーバニットの肩に矢が刺さった。
「っ!!」
そのせいで、一瞬バランスを崩す。
フェルオは体をひねり、ウォーバニットに蹴りを食らわせた。
倒れこむウォーバニットを確認した後、矢の飛んできた方向を見る。
先ほどの少女が弓を構え、りりしい姿で立っていた。
「ぼーっとしないで、援護するわ!!」
「助かります。 ……えぇっと……」
「カルテよ。 カルテ=アスタロッド」
「ありがとうございます、カルテさん。 でも、頭や心臓は避けてくださいね!」
「わかった、任せて!」
カルテが放った弓は、見事に獣人達の足や腕を射抜いていた。
このくらいの傷なら、ちゃんとした薬草を使えば獣人の回復力とあいまってすぐに治せるだろう。
カルテの援護のお陰で、群れは数を減らしていく。
そんな時、何かを感じ取ったのか、バルシェが大声を上げた。
「気をつけろ、大物が来るぞ!!」
その声に、フェルオも警戒を始める。
対象は……森の奥。
ぐおおおぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉお!!
飛び出してきたのは、一匹のワーウルフ
しかし、様子がおかしい。
「これはっ……!!」
突然、ワーウルフの体に異変が現れる。
骨のきしむ音をたてながら、体が不規則にゆがんでいく。
筋肉が盛り上がり、二本足では体を支えられなくなる。
その影はありえないほど巨大に膨れ上がり、背中から蛇のような突起が生える。
地面に両腕の爪を食い込ませ、その風貌は完全な獣となってしまった……。
「ベルガールと……同じだ……」
「ヤロウ……魔獣に先祖がえりしやがったな……」
「魔獣!?」
魔獣と化したワーウルフは牙を光らせ、三人に襲い掛かった。
「避けろ!!」
地面をえぐるほどの一撃が放たれる。
すんでのところで三人はその攻撃を避けた。
「運動不足だった大臣さんとは違うってか!!」
手ごろな石を目になげつけ、バルシェは魔獣の気を引く。
暴走状態にあるワーウルフは、その挑発に乗ってバルシェを追いかけ始めた。
「ほらほら、こっちだよ!!」
ワーウルフの爪が、バルシェの体を掠める。
「な、なんなのよ、一体……!!」
「すみません、ちょっと大変なことになっていて……
 こんなことなら、武器くらい持ってくるんでした……」
カルテを土埃から庇いながら、フェルオは小声でつぶやいた。
「ねぇ、このまんまじゃあのライオン君、危ないんじゃない!?」
「そうは言っても……」
悩むフェルオの頭に、ふと、一つの妙案が浮かんだ。
が、それに対して、もう一人の自分が異論を唱える。
「……いや、現実的でもないし……」
「な、何かあるの!?」
「う……うん……ただ、ちょっと大変だよ?」
「あれを放っておく方が大変よ!!」
「そ、そうだね……」
カルテにうながされ、しぶしぶフェルオが答える。
「左脇腹の下に活動に必要な器官があるんだ。
 そこが傷つけば、獣人は生命維持のために一時的に休眠状態になるんだけど……
 あの状態じゃぁ、どれだけ効果があるか……」
「わかった! やってみる!!」
カルテは弓を構えると、ワーウルフにむかって狙いを定める。
「こっちだよ、来やがれ!!」
ワーウルフの爪が振り下ろされる。
地面をえぐる一撃を避け、バルシェは大きく飛び上がる。
「おらぁ!!」
バルシェのかかとが、ワーウルフの額に突き刺さる。
うぉおおぉおぉぉおお!!
ワーウルフの動きが一瞬止まる。
「いまだ!!」
カルテがそっと手を離す。
弓のしなりが戻る勢いで、矢がまっすぐ前に飛んでいく。
鋭い音と共にその矢はワーウルフの体を貫き、抜けた先の空中で勢いを止める。
「あっ……」
「よし、当たった!!」
矢と共に、ワーウルフの巨体が地面に落ちる。
大量の土が空高く舞い上がった。
「上手くいったみたいね」
「よかった……」
フェルオとカルテは安堵の息を吐く。
群れは壊滅したらしく、獣人達の咆哮は、全く聞こえなくなった。
「おう、無事だったみたいだな」
土埃のなかからバルシェが現れる。
少し苦戦したのか、体中が傷だらけだが……彼からすればかすり傷でもないんだろう。
「怪我は?」
「見ての通り……っていうか、あなたの方が問題じゃない?」
「何、このくらい"へ"でもないさ……
 しっかし……」
倒れたワーウルフを見て、バルシェは笑いかける。
「いい腕してるじゃないか、嬢ちゃん。 どこで習ったんだ?」
「これでも、弓兵出身なのよ。 それと、嬢ちゃんって呼ばないで」
「そういえば、しっかりした体つきだし……嬢ちゃん只者じゃないんだな」
「一応はエリートな部隊の出身だからね。 って、嬢ちゃんじゃないって言ってるでしょ」
「見かけによらず、すごい嬢ちゃんだな」
「だ・か・ら! 嬢ちゃんて呼ばないで!!」
「がはははははは、照れるな照れるな」
「照れてるわけじゃないのよ!!」
戦闘後だというのに声を荒げる二人を見て、フェルオは呆れのため息を吐いた。


予備の血清を与え、なんとか群れの面々は意識を取り戻した。
魔獣化したものは元の姿に戻れなかったが、意識が戻ったということで問題ないだろう。
一応、王に宛てた手紙を持たせ、いいように取り計らってもらえるようにはした。
こういうときに、面倒見のいいバルシェは率先して仕事をしている。
その真面目さが時々怖いのだが……
「で、さっきの話なんだけど……」
フェルオが思い出したように話を切り出す。
「君が言っていた、人間の男の子と魔女の女の子の二人組み……
 もしかして、アル君とメルフィさんのことですか?」
「え? アルを知ってるんですか!?」
(あ、アルだけなんだ……)
カルテの表情が変わる。
流石にその変化には勘繰るものがあるが、バルシェたちは特に口に出さなかった。
「二人はシャルロットちゃんをつれて、獣人王国を抜けていきましたよ。
 聞いた話では、北にある飛龍の山を越えて行ったとか……」
「そうですか、ありがとうございます!!」
カルテは思わず走り出しそうになっていたが……
「ちょっと待った。 嬢ちゃん」
呼び止めたのはバルシェだった。
群れを見送りながらである。
「何ですか……?」
ちょっと不機嫌そうにカルテが答えるが、バルシェにそれを気にするほどの甲斐性はない。
「今からじゃ追いつけないだろう。 っていうかすれ違うのが関の山だな」
「え……?」
「飛龍の山にいったなら、北にある"白の平原"か、南東の"ドワーフの洞窟"くらいしか
 めぼしいものはないだろうが……
 サリエナにあったなら、"白の平原"にいくのは止めているはずだな」
「"白の平原"……?」
「獣人王国の北に広がる雪原地帯のことですよ。
 万年凍土に豪雪山脈の組み合わせのせいで、行けば凍死確実です。
 あそこで生活できるのは極寒の獣人か、寒さを凌げる"力"をもつ種族だけでしょう」
不思議そうな顔をするカルテに、フェルオが答える。
要約すると、流石の二人も北に行くことは流石にないだろうということだ。
「となると"ドワーフの洞窟"。
 その先はもう海だろうし、あいつらの行きそうなところと言えば……」
「……海を越えて"ミオ・ラ・シェール"に行くか……
 あのことを考えると、その方が自然かもしれない……」
「ご名答、よくできました」
「でも、他にも船はあるだろうし……行き先だって……」
「行き先の殆どは獣人王国の領地だよ。
 他の国に遠出するにしても、あまり路銀もないだろうしな」
「なるほど、やっぱり"ミオ・ラ・シェール"が一番現実的か」
「え?」
置いてけぼりにされたカルテが不思議そうに声を上げる。
どうやらこのあたりの地理が、人間の国では未開のようだ。
鎖国状態なのだから、当然と言えば当然か。
「つまり、あいつらに追いつきたいなら"ミオ・ラ・シェール"を目指したほうがいいってこと」
「"ミオ・ラ・シェール"……」
困惑するカルテに、フェルオが説明を加える。
「エルフの統治する森の国です。 このあたりの国では最も国力のある国ですよ」
「うちの国は領土ばっかり広くてな。 国王含めて自由すぎるんだよ。」
「こら、そういうことを言うんじゃない」
バルシェのちゃかしにも、律儀に突っ込むフェルオ。
「あの国は女王を中心にしたしっかりとした国家基盤がありまして、
 政治経済兵力……外交に対してちょっと億劫な姿勢が気になりますが……
 どれをとっても最高水準の国です」
「はぁ……」
「あそこでは魔法も発達していますからね。
 もし間違っていても、正確な位置を探してもらえるはずですよ」
「なるほど……」
カルテは少し考えるそぶりを見せた。
「で、"ミオ・ラ・シェール"ってどうやって行けばいいんですか?」
「ここから南の方角、海沿いの道を進んでいけばいけますよ」
「途中に"深山の渓谷"とか"幻惑の樹海"とか障害もあるが……
 上手くすれば船より早く着けるはずだ」
「わかりました、ありがとうございます」
カルテは深々とお礼をすると、南の方を向いて歩き出した。
「っと、あと一つ」
再びバルシェに呼び止められ、カルテは振り返る。
「嬢ちゃんの旅に、精霊の加護があらんことを。
 嬢ちゃん、しっかりやれよ」
その言葉に、カルテは笑顔を返す。
「嬢ちゃんって呼ばないでよ!」
そういい残すと、カルテは走り去っていった。
その後姿を、二人の獣人は暫くの間見つめていた。
「珍しいな、オレたちに怯えなかったぜ?」
「彼女みたいな人がいるのなら……今回の交渉は上手くいきそうですね」
ほんの少し、希望を見出した二人は、自分たちの旅路を急いだ。
時間はあまり残されていないのだ。


グラールキングダムの外れに、大きな滝がある。
そこで、一人の男が剣を振るっていた。
ただ強くなるためだけに、自ら修行に明け暮れているのだ。
その男のもとに、二人の獣人が現れた。
「……魔物か?」
「ん〜、その呼び方されるのは困るんだが……」
獅子の顔を持つ獣人は岩の上に座ると、その男を見据えてこう言った。


「オレらと協力する気、ない?」